松戸混声合唱団 Matsudo Mixed Chorus

― 演奏会 ―

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― 定期演奏会の記録 ―

2005年10月16日(日)

午後2時 開演

森のホール21・大ホール

松戸混声合唱団第11回定期演奏会

モーツァルト 生誕250周年記念
ヴェスペレ、ミサ・ソレムニス
バッハ ヴァイオリン協奏曲第2番

指揮:福島 章恭

管弦楽:ヴェリタス室内オーケストラ

ソプラノ:半田 美和子

アルト:彌勒 忠史(カウンターテナー)
テノール:大槻 孝志 バス:成田 博之

ヴァイオリン独奏:鈴木 理恵子 オルガン:能登 伊津子

合唱:松戸混声合唱団

■主催:松戸混声合唱団 ■共催:(財)松戸市文化振興財団

■後援:松戸市教育委員会

プログラム・曲目紹介

J.S.バッハ ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042

W.A.モーツァルト ヴェスペレ 証聖者のための晩課 KV339

  1. Dixit
  2. Confitebor
  3. Beatus vir
  4. Laudate pueri
  5. Laudate Dominum
  6. Magnificat

W.A.モーツァルト ミサ・ソレムニス ハ短調 孤児院ミサ kv139(47a)

  1. Kyrie
  2. Gloria
  3. Credo
  4. Sanctus
  5. Benedictus
  6. AgnusDei

モーツァルト不滅なる創造の力

ザルツブルク時代の教会音楽、最後の作品はk339 〈ヴェスペレ=晩課〉

カトリック教会の修道院では聖務日課として、朝課(夜明け前の祈り)から終課(就寝前の祈り)までの間に6回の定刻礼拝(グレゴリア聖歌)の慣行があり、その内の一つに晩課(日没時における祈り:ヴェスペレ)という礼拝がある。そのヴェスペレに限り、一般の教会で、大祝日には盛大に、しかもグレゴリア聖歌(単旋律)でなくポリフォニー楽曲(多声音楽様式)器楽伴奏で演奏するようになった。

モーツァルトが残したヴェスペレとはザルツブルク時代の作品k321〈主日のための晩課、(ヴェスぺレ)ハ長調〉(1779)と本日、松戸混声合唱団が演奏する作品k339〈証聖者のための晩課(ヴェスペレ)ハ長調〉(1780・24歳)の2曲だけである。ザルツブルク宮廷音楽家・オルガニストとして復職(1779・1・25)後に手掛けた作品であるが、大司教コロレードが要求した教会音楽の「簡潔さ」には楽器編成法や演奏時間にまで制約があった。

ヴェスぺレは詩編109「ディクシット」、詩編110「コンフィテヴォル」、詩編111「べアートゥス・ヴィル」詩編112「ラウダーテ・プエリ」、詩編116「ラウダーテ・ドミヌム」と「マニフィカト」で全体を構成しているが、ミサ曲と異なり、個々の詩編はそれ自体独自の世界を形成している。ヴェスペレの特徴は各詩編の終結に共通して「ドクソロジア=小栄唱」〈Gloria patri,et Filio,et Spiritui Sancto. Sicut erat in principio,et nunc,et semper et in saecula saeculorum. Amen=願わくは、父と子と聖霊とに栄えあらんことを、はじめにありしごとく、今もいつの世々にいたるまで、アーメン〉が歌われる。そしてヴェスぺレの結びには必ず歌われるのが「マニフィカト」=「マリアの賛歌:ルカによる福音書」である。

モーツァルトの特徴は詩編112(ラウダーテ・プエリ)の対位法上の形態には、イタリア的南ドイツの伝統、17〜18世紀では通常であるstile antico(伝統的スタイル)で書き、続く詩編116「ラウダーテ・ドミヌム」においてはstile modermo(現代的スタイル)をして、感情を自由に表現できるような雰囲気を、醸し出せるよう形成している。

この現代的スタイルの「ラウダーテ・ドミヌム」(主をほめたたえよ)の情景描写をモーツァルト研究者ロビンズ・ランドは「ソプラノのソロは、コーラスと弦楽器の上を舞い飛ぶが、その無邪気なほどの世俗ぶりは、オーストリアの教会のロココオルガン壇につきもののエンジェルたちが、夢中になって太鼓を叩きトランペットを吹き鳴らす姿を思わせる。」と自著『モーツァルト:音楽における天才の役割』に表現している。

12歳にして、初めて手掛けたミサ曲は傑作〈孤児院ミサ〉

『ヴィーン宮廷儀典記録(1768)』や『ヴィーン日報』には「12月7日、皇太后マリーア・テレージアはレンヴェークにある孤児院の新築教会献堂式とミサ聖祭にご臨席。盛儀ミサに際して、孤児院合唱団が演奏する音楽のすべては、ザルツブルクの大司教に仕える楽長レーオポルト・モーツァルト氏の12歳になる幼い子息で、その非凡な才能によって知られたヴォルフガング・モーツァルト君が、この度の祝典のために、全く新たに書いたものである。彼自身の指揮で演奏され、ひろく喝采を博し、かつ驚嘆の的となった」との記録がある。その新たに書いた3曲中のひとつが〈ミサ・ソレムニス ハ短調〉である。モーツァルト一家がヴィーン滞在中(1767-1769)、親交のあった孤児院院長のパールハーマー博士より依頼を受けた作品であり、モーツァルトが初めて手掛けたミサ曲という。作品番号k139(47a)とく孤児院ミサ〉の代名詞はモーツァルト没後のモーツァルト研究者ケッヒェルにより付けられたものである。最後の晩餐を象徴的に再現するカトリック教会の最も重要な典礼・ミサ、そのミサ通常文はキリエ(あわれみの賛歌)、グローリア(栄光の賛歌)、クレド(信仰宣言)、サンクトゥス(感謝の賛歌)、アニュス・デイ(平和の賛歌)で構成されている。モーツァルトはその典礼ストーリーを伝統的なミサ様式にとらわれずに独自の世界観で、大胆な表現で曲をつけている。

導入の「キリエ」の章は:落ち着いたゆっくりしたテンポでKyrie eleisonと荘厳な雰囲気で歌い出すが、すぐに転調し明るく速いテンポでKyrie eleisonと、新聖堂が落成した喜びに溢れたイメージで合唱が展開していくが、喜びを倍加するがごとく主題がダ・カーポされる。

「グローリア」の章は:GloriainexcelsisDeo!(神に栄光を)と祈厳し〜Gratias agimus tibi(感謝を捧げる)を格調高く歌う。〜 Qui tollis peccata mundi(世の罪を取り除きたもう)には敬度な祈りの合唱が入り、〜Cum sancto Spiritu in gloria Dei Patris, Amen. (聖霊とともに、アーメン)の堂々としたフーガ展開は、この章の劇的なラストシーンである。

「クレド」の章は:Credo in unum Deum(唯一の神を信じ)と確信に満ちた合唱でクレド物語が展開していく。転調しCrucifixus etiam pro nobis(十字架に掛けられ)と受難を重苦しく象徴的に歌う場面はドラマティク。ソプラノソロがEt resururexit(復活した)と歌い出し、合唱がそれを受けて、同じく復活の喜びを歌いだす。Et unam sanctam catholicam(唯一の聖なる公の)と力強く教会を讃美する合唱が〜Et vitam venturi saeculi. Amen.(待ち望みます。アーメン)とフーガ構成による合唱でこの章のフィナーレに入る。

「サンクトゥス」の章は:Sanctus(聖なるかな)の序唱から転調し、Pleni sunt caeli et tera gloria tua.(栄光に満ち)と感謝の賛歌がベネディクトゥスに引き継がれHosannaがダ・カーポされる。

「アニュス・デイ」の章は:テノールソロがAgnus Dei, qui tollis peccata mundi(神の子羊よ)と歌う序章を合唱がしめやかに再現し、〈孤児院ミサ〉のフィナーレとしてDona nobis pacem(平和をお与えください)の合唱で幕を閉じる。

(文・神谷一夫)

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